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大阪地方裁判所 平成6年(わ)3973号 判決 1995年6月09日

本籍

大阪府泉大津市松之浜町二丁目六二七番地

住居

同府同市同町二丁目二三番一五号

会社役員

好本進

昭和一五年一二月二四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官仁田裕也出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、妻好本ユリ子の代理人として、好本ユリ子の所得税の申告、修正申告、納税等の手続全般を行なっていた者であるが、好本ユリ子の所得税を免れようと考え、好本ユリ子の平成三年分の実際の総合課税の所得金額が二八六万五〇〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が五億九四七五万八四九五円であった(別紙1の修正損益計算書参照)のにかかわらず、好本ユリ子が、相続により取得した事業用資産である大阪府泉大津市旭町一九六番の宅地の持分三六分の一八を、平成三年二月二八日、泉大津駅東地区市街地再開発組合に七億〇四九一万八〇九四円で譲渡したことに関し、買換え資産の取得予定年月日を平成四年一二月三一日とするなどの租税特別措置法三七条の買換え承認申請を提出したうえ、架空の物品売買契約書等を作成し、好本ユリ子が買換資産を取得して事業の用に供したと仮装するなどして、右譲渡所得の一部を秘匿し、平成五年四月三〇日、大阪府泉大津市二田町一丁目一五番二七号所在の所轄泉大津税務署において、同税務署長に対し、好本ユリ子の平成三年分の総合課税の所得金額が二八六万五〇〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が一億六五三五万八四九七円で、これに対する所得税額が二四八〇万三七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税修正申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額八九二一万三七〇〇円と右申告税額との差額六四四一万円(別紙2の税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二六)

一  平山泰男(二二)及び好本ユリ子(二五)の検察官に対する各供述調書

一  山原博文(二〇)、柳俊男こと東旭必(二一)、呉本利一こと呉利一(二三)及び東義塚(二四)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一四通(五ないし一八)

一  収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(四)

一  大蔵事務官作成の証明書二通(二、三)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、所得税法二四四条一項、二三八条一項に該当するところ、所定の懲役と罰金刑とを併科し、かつ、情状により同条二項を適用し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処することとし、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、妻所有の不動産の譲渡所得に関し、その資金運用も含めて納税手続等全般を任されていた被告人において、金員を貸し付けていた者などに協力を依頼して架空の物品売買契約書を作成し、買換資産を取得し事業の用に供したと仮装するなどして、譲渡所得を秘匿し、脱税を行なった計画的かつ悪質な事案であり、その脱税額も六四四一万円と多額であって、被告人の刑事責任は重いというべきである。

しかし、被告人には、これまで前科前歴はなく、自己の事業関係を含めて税法上の問題を起こしたこともなく、本件脱税についても、その安易さは責められるべきではあるものの、税法の知識不足から買換資産に該当しない不動産を取得してしまったことや、事業の取引先会社の倒産で相当額の債権が回収不能となったことなどにより、新たな買換資産の購入資金、さらには、納税資金にも枯渇していたことが脱税の原因、動機であり、査察着手後、事実関係を認めるとともに、本件により汚点を残した旨述べるなど、反省も十分であること、また、本件に関し、修正申告もされ、本税は既に全額納付済みで、付帯税についても納付委託の方法により分割納付中であることなど、量刑上被告人に有利に考慮すべき事情又はしん酌すべき事情も少なからず認められる。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮し、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処し、懲役刑については、その刑の執行を猶予することにした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

税額計算書

<省略>

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